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進化し続ける電気の道具 〜電池応用商品〜

文 カワイイファクトリー(別ウインドウが開きます)

3 釣り好き社員が生んだ「乾電池式水中集魚灯」

電池の道具を取り上げてはや3回目。読者のみなさんも、松下電池工業のいもづる式発想法にそろそろ慣れてきたことと思う。そこで、今回は趣味の世界へと目を転じてみたい。

趣味のなかでも、電池応用商品がよく利用されているのはアウトドアの世界だ。具体的にはキャンプや登山、釣りなどが思い浮かぶ。注目したいのは、“釣り”。というのも、松下が1964年に発売した電気ウキが、改良を重ねながらこれまでに4,000万本の売上げを記録しているというからだ。

発売当初は単3電池で豆球を光らせていた電気ウキだが、やがて、LED+水銀電池、LED+ピン型リチウム電池と、より明るくコンパクトになって現在に至っている。 これだけですでに立派ないもづる式発想法だが、さらに、エアーポンプ、針結び器、光る釣り糸など、80点余りの釣り用品をいもづる式に商品化してきた。

松下電池工業のなかでも歴史があるという釣り用品だが、現在、この分野を担当しているのが、川端克昌さん(技術)と池田真丈さん(企画)。ふたりとも趣味は釣りということで、釣り具担当としては最強のコンビだ。

しかし、池田さんによれば、趣味の世界だけに難しい面があるという。
「例えば、ゴルフ用品と同じで、使用条件はユーザーによってさまざま。関西と関東では同じ電気ウキでも評価が正反対になることがあります。釣り具には正解というものがないんです」

さらに、釣りをする人だけがピンとくるようなアイデアも多く、社内で企画がなかなか通らないという面もあるのだそうだ。
「新商品のアイデアを思いついても、予算がすぐに付くことはほとんどないですね。まず川端と相談し、ふたりでいけそうだと思えば、勤務が終わってからテストを繰り返し、確信が持てたところで企画会議に提出ということをやってます」

今回取り上げる乾電池式集魚灯も、まさにそうした経緯を経て生まれた商品だ。そして、正式な企画会議で提案するまでの1年間、具体的には2003年から2004年にかけて、ふたりだけの秘かな開発が繰り返された。

初代電気ウキと5点発光ウキ

1964年に発売された初代電気ウキ(左)と、最新型は、5点発光ウキ(右)。

乾電池式エアーポンプミクロと乾電池式薄型針結び器

(左)乾電池式エアーポンプミクロ
(右)乾電池式薄型針結び器

光る釣り糸、“LUMILINE”システム専用畜光器

光る釣り糸、“LUMILINE”システム専用畜光器。 糸に光を溜めこみ発光させる。

池田真丈さんと川端克昌さん

応用機器ビジネスユニット 応用商品グループ 応用開発チームの池田真丈さん(右)と技術担当の川端克昌さん(左)

ここで、集魚灯について簡単に説明しておこう。
読んで字のごとく、「魚を集める灯」である集魚灯は、イカ釣り漁などで導入されるなど、漁業の世界ではよく知られた道具だ。イカは光に反応して集まってくる習性を持つため、漁では船舶の上部にセットしたライトで海面を明るく照らし、そこに集まるイカを捕獲する。

業務用とも呼べるこの集魚灯には、水上・水中の両タイプがあるが、釣り愛好家を対象とした集魚灯は水上タイプしか販売されていない。しかも、ガスで海面を照らすガスライト式が圧倒的に多い。

こうした状況に対し、川端さんと池田さんはある思いを抱いていた。何とか、ガスライトを用いた集魚灯の市場に切り込めないか。そのためには他社が先鞭を付けていないことをしなければ……。それが、水中タイプで乾電池式という集魚灯の開発のきっかけだった。

しかし、開発にはいくつもの課題があった。その1つが、製品の強度だ。水中式となれば、海に直接投げ入れるため、岸壁などにぶつかっても壊れない丈夫さが求められる。この問題をどうクリアするかを思案していたときに、あるものがヒントになった。

川端さんはアイデアを温めていた頃のことを説明してくれた。
「工事現場などで見かけるランタンです。これは、電球を金属や樹脂の網で保護するなど、堅牢性に優れ、ちょっとやそっとぶつけただけでは壊れません。この構造を採用すれば、思い描くような集魚灯ができると思ったんです」

いかにして広い範囲の魚を集めるかも、課題の1つだったが、これは360度全方向に光を放射する構造で解決を図った。電池式蛍光灯の技術、高い防水設計技術など、松下にしかできないことを盛り込めば、絶対にうまくいく。川端さんはそう確信していた。

プランが固まったところで、ふたりはさっそく試作品づくりに取り組んだ。だが、開発費はまだつかない段階であったため、13ワットの蛍光管を使った自社のランタンを使うことにした。

「地上で使うものを無理やり水中で試したんです。会社の仕事が終わってから準備をし、ランタンをビニール袋に入れて沈めるというような単純なことをやってました」と、池田さん。

何度となくビニール袋が破れはしたものの、確かに光の周りにプランクトンや小魚が寄ってきた。袋にも小魚の餌となる虫が無数にくっついてきて、ふたりはこれはいけるぞ!という感触をつかんだ。

2004年春、新製品開発を検討する企画会議で、ついに集魚灯を提案した。だが、ここでも上層部の反応はいまひとつ。こういう商品は前例がないし、蛍光灯を水中に沈めるだけでは能がないのではないか、本当にニーズがあるのかなど、厳しい意見が出された。

乾電池式集魚灯

今回のターゲットは乾電池式集魚灯。

水中写真

乾電池式集魚灯は業界初の水中に沈めるタイプ。水面の上から照らすライトとは一線を画している。

試作器ができるまで

試作器は自社製品をビニール袋で覆い、脱気したもの。とっても原始的だけど、確かに原理は正しい。

カワイイファクトリー

普通のランタンを水に沈めて試すなんて、釣り好きにしか思いつきませんね。

「魚が光に集まってくるから、そこに向かって糸を垂らせば本当に釣れるんです。集魚灯は夜釣りを盛り上げる道具として絶対に売れると僕らは確信していたんですが、釣りをしない人にはなかなか理解してもらえなくて」と、川端さん。

そこで、魚が光に反応するという事実を科学的に立証するため、漁業の実地検証で定評のある鹿児島大学水産学部に協力を仰いだ。大学の研究室では、川端さんが送り込んだ試作品に色の付いたフィルターをかぶせ、明るさを変えるなどしながら、実用性についての検証が繰り返された。

数カ月後、大学から提出されたレポートは、おおむね次のようなものだった。

「魚には色覚を持つものと持たないものがいることが知られている。過去の研究によれば、カツオ、マグロ、サメ類には色覚がなく、コイ、フナ、ブラックバス、スズキ、マダイ、サバ、アジ類等は色覚を持つといわれる。
そこで色覚を持つ魚類について、どのような色に反応するか実験した結果、例えば、アジは、青や緑系の色によく反応することがわかった」

レポートを踏まえ、川端さんは蛍光灯を6ワットのツイン管とし、LOW、HIGHの2way切り替え方式に決めた。さらに、付属品として脱着可能なブルーフィルターを付けることにした。

「魚の種類や水の濁り具合で光の強さが調整できるほうがよいということです。また、ブルーのフィルターはアジ、イカなどを集めるのに適していますが、対象とする魚によって選べるようにしました」と、川端さん。

ちなみに、赤系の色に反応するのは河川など浅い水域に生息する魚なのだそうだが、赤いフィルターは需要がほとんどないため、あえて付属させていない。必要な人は市販のフィルターを使えば対応できるという。

アジの光に対する応答特性

アジの目が異なる色の光にどの程度応答するか比較すると図のようになる。彼らの目が青・緑系の色によく反応するようである。(鹿児島大学水産学部提供資料より抜粋)

ランタンブルー

ランタンにブルーフィルターを装着して点灯したところ。

最終的な試作品ができあがると、ふたりは再びテストを繰り返した。
「会社のロッカーに釣り竿など一式が置いてあり、昼間からふたりで荷物を持って『行ってきます』というような感じで」と、池田さんは笑いながら打ち明けてくれた。楽しい仕事ではないか。

だが、ここでもまた問題がもち上がる。どんなにデータを見せても営業担当がなかなか信じてくれないのだ。ふたりは思いあまって、一緒に釣りに行きましょう、と担当者を誘った。 『釣りバカ日誌』のハマちゃん顔負けの展開である。

平日の夕刻、川端さんと池田さんは営業担当とともに、タチウオが釣れる神戸あたりの釣場に行き、集魚灯を水中に沈めた。待つこと2時間。魚が集まってくる気配はほとんどない。営業担当者はやっぱりだめやないか、という表情。ふたりはハラハラして海面を見つめていた。
もう時間切れ、というまさにそのときだ。彼らが見下ろす水中を大きなタチウオがブワッと背びれを翻していくのが見えた。
営業担当は「おおっ、ほんまに集まってきよった!」と大興奮。商品化が決定した瞬間だった。

会社のロッカー

いつでも釣りに行けるように、会社のロッカーには道具一式が置かれている。

ふたりが釣りをしているところ

試験のため、海に出ています。
仕事です、仕事。

川端さんは本来技術の担当だが、この商品に関しては自らが発案したという強い思い入れもあり、デザインについても深く関わった。そんな彼に集魚灯のこだわり設計についてうかがった。

「夜釣りでは準備や片づけの際に手元を明るく照らしてくれるライトも必要ですから、地上ではランタンとしても使えるというのが見た目にもわかることが大切でした」

水陸両用というのはいかにも便利そうな響きがある。松下電池工業は、ほかにも目覚まし時計付強力ライトとか、ラジオ付強力ライトといった2wayライトを出しているが、これもそのような1粒で2度おいしい的なところを狙っている。

「最も特徴的な部分は、カバーです。カバーの材質は海水に対しても変化しないものがいい。金属は使えないので樹脂にしました。これは、ポリカーボネイトというヘルメットなどに使われている素材で、衝撃に強く透明性があります」

透明性は、光の透過をよくするためにも重要だ。

カバーには格子状に穴が開いている。光を有効に放射するために、穴はできるかぎり大きくした。最初から図面を引いて割り出した大きさではなく、試作品をつくっては、強度を試すという実験を繰り返し、最終的には2メートルの高さからの自然落下に耐える強度をもつ設計にした。
ライトは海中に沈めるとかなり汚れるため、洗いやすいようにカバーは取り外し可能になっている。そして、もうひとつ、この集魚灯の外観において強烈な存在感を放っているグレーのラバー部分にも注目だ。

「ラバーは、集魚灯が岸壁などに当たった際、クッションの役割をはたします。また、釣り場は濡れていますので、カバーを外すときに手が滑らないようにという配慮から、凹凸を付けています。本体のくぼみも、同様です。つかみやすいようにということですね」

乾電池式集魚灯は、従来のガスライト式に比べてもメリットがいろいろある。

1. 経済的である。ガスライトはボンベが2時間で480円、集魚灯は単1電池4本800円で6時間もつ。2. 光の透過性が高い。ガスライトは、海面を照らすという方式だから照度がかなり下がる。一方、乾電池式は、水面を水中に光を入れるので光のロスがなく、照度が高い。3. 火を使わないから安全である。4. 片づけるときにガスライトのように熱くなく、手入れがしやすい。

設計面も、細かなところまで気配りがきいている。
例えば、ロープは上部と底部の2カ所に付けることができ、上向き、下向きの2パターンの光をつくり出すことが可能だ。上下を変えることで獲物も変わってくる。ちなみにタチウオやアジなどを狙うときは上向きの光が適しているという。

集魚灯のパーツ

集魚灯のパーツ。左から、ラバー、ブルーフィルター、カバー、本体とグローブに覆われた蛍光管、付属品のロープ。

電池は単1形を4本を使用

電池は単1形を4本を使用。空間の無駄を省くため、余分なすき間はない。

ロープ接続部

ロープは上部と底の2カ所に付けることができる。

水中照射イラスト

カバーはネジ式でしっかりと固定するようになっている。人によってしめつけ加減はまちまちなため、ネジの終わりを決めている。しめつけすぎてヒビが入るという心配がない。

水中照射イラスト

上向きの光は本体の下に影ができるため、光に集まってきたプランクトンや小魚をより大きな魚が影のなかで待ち伏せするという構図ができる。例えば、タチウオを狙うならこの使い方。ちなみに、下向の光は、影はできない代わりに深いところまで光が届くため、別のタイプの魚を狙うのに向いている。

こうして、発案から3年を経た2005年3月、ついに電池式集魚灯が完成した。

今年の2月には、釣りファンがもっとも注目する新商品展示会に川端さんと池田さんは自らつくり上げた集魚灯をひっさげ出品したという。
釣り愛好家が注目する展示会だけに、新製品の出品は感慨もひとしおだったにちがいない。

幸い、集魚灯は実際に使っていただいたお客さまからクチコミで広がり、順調に売上げを伸ばしている。釣り業界の定番アイテムになる日も近いだろう。

川端さんは言う。
「とにかく、誰が使っても釣れなければならないんです。そうすれば、もっと釣りに行きたくなるし、関連商品の売上げも伸びる。釣り業界自体が活性化することにもつながるんです」

趣味の世界を仕事に活かしながら、ひらめきのアイデアを実現できるのは、少人数によるプロジェクトだからこそ。こまめに意見交換し、苦労さえも笑いとばし合いながら開発された商品は、「便利さ」だけでなく、「楽しさ」ももたらしてくれる。大型家電では味わえない、下駄履きの幸福感がある。

次回はコードレス アイスクリーマーを紹介します。この道具に卵と牛乳と砂糖さえあれば、簡単に自家製アイスクリームがつくれるんです。すごいでしょ。お楽しみに!

イベント会場

今年2月に行われた釣り具の一大イベントに出品。

集魚灯(別ウインドウが開きます。)

実際の使い方を、動画で確認いただけます。上の写真をクリックしてください。

2008年10月1日、松下電池工業株式会社は、エナジー社に社名を変更いたしました。

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