ここで、集魚灯について簡単に説明しておこう。
読んで字のごとく、「魚を集める灯」である集魚灯は、イカ釣り漁などで導入されるなど、漁業の世界ではよく知られた道具だ。イカは光に反応して集まってくる習性を持つため、漁では船舶の上部にセットしたライトで海面を明るく照らし、そこに集まるイカを捕獲する。
業務用とも呼べるこの集魚灯には、水上・水中の両タイプがあるが、釣り愛好家を対象とした集魚灯は水上タイプしか販売されていない。しかも、ガスで海面を照らすガスライト式が圧倒的に多い。
こうした状況に対し、川端さんと池田さんはある思いを抱いていた。何とか、ガスライトを用いた集魚灯の市場に切り込めないか。そのためには他社が先鞭を付けていないことをしなければ……。それが、水中タイプで乾電池式という集魚灯の開発のきっかけだった。
しかし、開発にはいくつもの課題があった。その1つが、製品の強度だ。水中式となれば、海に直接投げ入れるため、岸壁などにぶつかっても壊れない丈夫さが求められる。この問題をどうクリアするかを思案していたときに、あるものがヒントになった。
川端さんはアイデアを温めていた頃のことを説明してくれた。
「工事現場などで見かけるランタンです。これは、電球を金属や樹脂の網で保護するなど、堅牢性に優れ、ちょっとやそっとぶつけただけでは壊れません。この構造を採用すれば、思い描くような集魚灯ができると思ったんです」
いかにして広い範囲の魚を集めるかも、課題の1つだったが、これは360度全方向に光を放射する構造で解決を図った。電池式蛍光灯の技術、高い防水設計技術など、松下にしかできないことを盛り込めば、絶対にうまくいく。川端さんはそう確信していた。
プランが固まったところで、ふたりはさっそく試作品づくりに取り組んだ。だが、開発費はまだつかない段階であったため、13ワットの蛍光管を使った自社のランタンを使うことにした。
「地上で使うものを無理やり水中で試したんです。会社の仕事が終わってから準備をし、ランタンをビニール袋に入れて沈めるというような単純なことをやってました」と、池田さん。
何度となくビニール袋が破れはしたものの、確かに光の周りにプランクトンや小魚が寄ってきた。袋にも小魚の餌となる虫が無数にくっついてきて、ふたりはこれはいけるぞ!という感触をつかんだ。
2004年春、新製品開発を検討する企画会議で、ついに集魚灯を提案した。だが、ここでも上層部の反応はいまひとつ。こういう商品は前例がないし、蛍光灯を水中に沈めるだけでは能がないのではないか、本当にニーズがあるのかなど、厳しい意見が出された。