小路さんがワーキングモデルをベースに全体のデザインを決めていく間、向井さん、白川さん、楠本さんらが細かな仕様を検討していった。
白川さんと向井さんは当時をこう振り返る。
「まず、アイスクリームのつくり方から勉強しました。実際にアイスクリームメーカーに取材にうかがい、工場見学も行いました。また、調理学校にも行ってレシピについてもうかがいました。そうするうちに、おいしい(舌触りのなめらかな)アイスクリームをつくる秘訣は、材料に空気をたっぷり含ませることだというとがわかってきたんです」
おいしいアイスクリームをつくるため、白川さんたちは実験を繰り返し行い、攪拌の回数や回転間隔などを検討していった。試作に採用したレシピはベーシックなバニラアイスだった。
「最初は手動でかき混ぜのタイミングを見ながら調整をしていきました。初めは液状の材料も次第に固まってきますから、かき混ぜる間隔を短くしていく必要があります。そうしたタイミングを決定し、最終的にマイコンにインプットしていったのです」
白川さんの言葉に楠本さんが補足した。
「回転ブレードの形状もつくっては変えての連続でした。ブレードは穴あきで変型がよいのはわかっていましたが、具体的にどう変型させるかは実験で検証しながら決めていきました」
攪拌の商品化にたどり着くまでに、彼らはいったい何kgのアイスクリームをつくり、食べたのだろう。小路さん曰く、おそらく何十kgにもなったのではないか。
このほか、電池寿命なども検討された。容器1杯500mlのアイスクリームを25回つくることができるということで、夏休み期間にほぼ毎日つくったとしても、電池は大丈夫だ。
商品化された本体部のデザインは、とてもかわいらしい小判型。この形状が無駄なくすっきりとしており、大きな黄色い丸のスイッチがアクセントとなって、素敵だ。このデザインについて小路さんは説明する。
「ワーキングモデルを使ってレイアウトを検討するなかで、小判型がバランスもよく、一番まとまりがありました。スイッチボタンは卵黄のイメージです。アイスクリームのレシピを象徴するのが卵黄ですので、スイッチでそれを表現しました。実際の卵黄の色より少し明度・彩度を上げ、清潔でさわやかなイメージにしています」
それぞれの立場で育てた開発への思いが実を結び、世に出たコードレスアイスクリーマーは予想以上の売れ行きを示した。
お菓子づくりが好きな女性がターゲットだったが、実際はおばあちゃんが、孫と一緒にアイスクリームづくりを楽しむために購入するというケースが多いという。一種のコミュニケーション・ツールとして効果を発揮しているようだ。
また、なんと東南アジアはじめ海外でもまんべんなく売れているという。電池式なので電圧を気にしなくてよい点もさることながら、日本のようにコンビニが発達していない海外では、アイスクリームを簡単に買うことができず、家庭で手軽につくれるアイスクリーマーが重宝されるのだという。
最初は、「だれがつくるねん?アイスクリーム」という存在だったアイスクリーマー。しかし、今ではあったら欲しい、使いたい道具の代表格となった。「どうしても世に出したい」と願う担当者らの情熱が、賛同者を生み、ユーザーの潜在的な願望と重なった瞬間だ。今までにない道具が生まれ、新しい文化が育っていくのはこんなときなのだろう。
次回はとうとう最終回。2005年度のグッドデザイン賞金賞を獲得した「電池がどれでもライト」をレポートします。これもまた、あったらいいなの典型的な道具。この商品の開発ストーリーを通じて、同社のデザイン思想をも解明していきます。乞うご期待!