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進化し続ける電気の道具 〜電池応用商品〜

文 カワイイファクトリー(別ウインドウが開きます)

4 カメラ用の電池を応用「コードレスアイスクリーマー」

アイスクリームは買ってくるもの、と子供のころ思っていた。けれど、あるとき『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー著)の姉妹編ともいうべき『農場の少年』に出てきた、アイスクリームをつくる話を読んでびっくり。

内容を要約するとこうだ。ある日、子供たちだけで留守番をすることになった。ひとりが「ねえ、アイスクリームをつくろうや!」と言うと、ある男の子が氷蔵から氷の固まりを持ってきた。また、ある女の子は卵と砂糖と牛乳を泡立てて容器に入れ、それを氷で冷やしながらみんなでかき混ぜてアイスクリームをつくった。
筆者にとって、

アイスクリームは手づくりできる

子供にもできるほど簡単

ということがなにより驚きだった。

アイスクリーム

以来、アイスクリームを手づくりする方法を模索してきた。
その初期段階は料理本を見ながらの奮闘だったが、一般的なつくり方というのは、調理した材料を冷凍庫に入れ、固まりかけてきたことろを見計らって取り出し、泡立て、再び冷凍庫に入れる。再び固まりかけてきたら、かき回すという動作を数回繰り返す、というものだった。つねに固まり具合を気にしていなければならず、面倒くさいことこのうえなかった。

第2段階(1990年代後半ごろ)では、手動式の家庭用アイスクリームメーカーを使っていた。これは、容器に分厚い保冷剤が充填されていて、あらかじめこの容器だけを冷凍庫で凍らせておく。そして、容器に材料を入れて専用の外容器にセットし、ブレードを回転させるハンドルをときどき回してやるとできあがりだ。実際に使ってみると、いちいち冷凍庫から取り出す手間が省け、かなり重宝した。しかし、ネックは容器の厚さが4cm近くもあり、常時冷凍庫に入れておくのはあまりにもスペースの無駄遣いになってしまう点だ。アイスクリームをつくろう、と思い立っても、容器を事前に冷やしておかなければならず、手軽さいう点からはやはりほど遠かった。また、この容器がすごく冷たく、冷凍庫から取り出すときに凍傷になるかと思うほど。そんなこんなで、次第に使う機会が少なくなっていったのだ。

手動式のアイスクリームメーカーと材料

ハンドルを回しているところ

手動式のアイスクリームメーカーを使っていた当時は、このようにしてアイスクリームを作っていた。

それでも、アイスクリームは絶対に手づくりがいいというのが筆者の見立てだ。自分好みの上質な材料を使って、無添加、できたて新鮮のアイスクリームが食べられるのだから。しかし、思いついたらすぐにつくりたい、できればブレッドメーカーのように全自動で。しかも我が家の狭い冷凍庫内にも容易に入る大きさでなければならない。が、そんな都合のいいアイスクリームメーカーは、なかなか見つからなかった。

ある日、たまたま見た雑誌の記事で「これだ!」という製品を見つけた。今回取り上げる松下製のコードレスアイスクリーマーである。全自動、サイズもばっちり、値段も1万円以下。ダメもとで試しても後悔しない価格帯だったので、さっそく購入した。

購入したコードレスアイスクリーマーは、リチウム電池2本で駆動した。スイッチを入れてからできあがりまで約3時間。ステンレスの容器は4人分のアイスクリーム(500ml)ができる大きさ。大家族でないかぎり、十分な容量だし、食べ過ぎてお腹を壊す心配もない。

最初につくったのはベーシックなバニラアイスクリーム。添付のレシピブックどおりに調合した材料を容器に入れて、カバーを取り付ける。スイッチを押して冷凍庫へ。あとはマイコン制御におまかせ。ランプが消えたのを確認して冷凍庫から出すと、できあがり。今までのアイスクリームづくりでいちばん手間がかからなかった。

そんな折もおり、松下電池工業の電池応用商品を取材することとなった。聞けば、コードレスアイスクリーマーの開発も、ここで行われたという。何という偶然、はたまた神の采配か。これはぜひとも開発者に直接会って話が聞きたいと、コードレスアイスクリーマーの取材に向かったのだった。

コードレスアイスクリーマー

コードレスアイスクリーマーコードレスアイスクリーマーは、2003年4月発売開始。

コードレスアイスクリーマーを企画したのは、応用商品グループ 企画担当の向井美樹さん。彼女はこれまでにコードレス掃除機や充電式浴槽みがき機、コードレススティックミキサー、うる肌ボディブラシなど、主に女性の使用頻度が高い製品を企画してきた。
「私が心がけてきたのは、世の中にないようなものや女性が使って便利と思えるような製品をつくることです。私自身が使って便利なものを企画するようにしています」と、向井さんは言う。

今回のアイスクリーマーを企画するきっかけについて伺うと、こんな答えが返ってきた。
「以前何かの雑誌で、つくりたいお菓子のランキングというのが載っていたんです。それによると、1番つくりたいのはケーキ、2番目がクッキー、3番目がアイスクリームということでした。お菓子づくりが好きという私の友達も、ケーキやクッキーはよくつくるけれど、アイスクリームはつくらないというのです」

にもかかわらず、向井さんはなぜ企画に立ち上がったのだろう。
「アイスクリームは、ご存知のようにつくるのがちょっと面倒くさい。けれども、家庭で簡単につくることができる道具があれば、いけるんじゃないかと直感したんです。というのも、最近はアレルギー食品や添加物への意識が高まっていて、無添加で自然な食材でつくったもの、安心できるものを食べたいと思う方が増えています。だから商品を出せば絶対にいけると」

確かに、手づくりの楽しさを損なわず、面倒臭さだけを取り除いた便利な道具があれば、逆につくる意欲を触発されて、普段はつくろうなんて思いよらないものでも、つくってみたくなるのが人情というものだ。
しかし、「言うは易し、なんですけれども」と、向井さんは笑う。
今までにつくったことがない製品だけに、開発も、企画を通すのも難しいのだ。それでも、リチウム電池を利用すれば商品化は可能であり、企画的にもリチウム電池の新たな需要開拓につながるはずだと彼女は確信した。

リチウム電池はその昔、チョモランマを目指す登山隊の要請で松下電池工業が開発したヘッドランプにも採用された電池で、低温に強く、パワフルで長もちという特長を備えている。だから、−18度C以下の冷凍庫内で使うアイスクリームメーカーの開発は、リチウム電池を活かすのにうってつけの企画だった。

希望に燃え、向井さんは何度もアイスクリーマーの開発の必要性をプレゼンした。が、男性中心の企画会議では突き返され続けるばかり。案の定、アイスクリームは買ってくるもので、わざわざ家庭でつくる人はいないと言われ、そうした思いこみが障害になっていた。

「営業部門に向けての大きなプレゼンというのがあるのですが、そこで2年続けて提案しましたが、通りませんでしたね」と、向井さん。
「でも面白い商品だと思ったし、リチウム電池を使うという発想で電池工業の強みを活かせる商品だと思ったので、どうしても商品化まで漕ぎ着けたかったんです」
最後の最後、向井さんは情熱のすべてを傾けて、試作品でアイスクリームをつくった。できあがると、それを抱えて営業部長の自宅に押しかけた。部長は企画決定のキーマンだった。
「どうでしょう、おいしいですか」と向井さんは詰め寄った。
「うむ、うまいな」と部長。
「だったら、ゴーサインを出してください」
だが、部長はまだ渋っている。ひとまず家を辞した向井さんだったが、あきらめきれずに、後日再び部長のケータイに直接電話を入れた。こうして、さすがの部長も根負けし、「そんなにやりたければやりなさい!」と言ってしまったのだった。
こうして、2年以上越しの企画はついに商品化が決定した。

向井さんポートレート

応用商品グループ 企画担当の向井美樹さん

カメラ用リチウム電池

アイスクリーマーは手に入りやすいカメラ用リチウム電池を2本使用している。

カワイイファクトリー

自分でもつくってみたんですが、柔らかくなっちゃって。どうしてですか、と尋ねる筆者。冷凍庫の温度が低いとそうなりますとのこと。

アイスクリーマーの開発は、向井さん同様、この商品をつくりたいという情熱をもつ技術者やデザイナーによって進められた。開発担当の白川美帆さんや電気開発担当の楠本殉也さん、パナソニックデザイン社の小路 隆さんたちである。
デザイナーの小路さんは、向井さんから企画があがる前からアイスクリームメーカーに興味を抱いていたという。
「実際にデザインに着手するにあたり、いかに小さくするか、また、持ちやすくフタの開閉も簡単にしたい、容器中の様子を確認する窓も付けたいといったことを念頭に、構造のレイアウトを考えました」

筆者の思っていたとおり、やはり日本の冷凍庫事情にあっては「小さくすること」が必須だったのだ。
小路さんはイメージスケッチだけでデザインを進めるデザイナーではない。理系デザイナーというか、メカニックなことにめっぽう強い人なのだ。自分でワーキング(機械実験)を行いながらデザインを決定できる強みが、ここでもいかんなく発揮された。

小路さんが決定したワーキングモデルの構成は、容器・本体カバー・本体の3つからなるものだった。容器にはホームセンターで買ってきたステンレスボールを使用。本体はモーター、ギア、リチウム電池、回路、スイッチ、回転ブレードで構成し、本体を覆うカバーは樹脂製とした。このワーキングモデルを家で試した小路さんは、次の3つのポイントについて確認した。

1. おいしさ

舌触りのなめらかなアイスクリームがおいしさの秘訣。おいしさには、凍っていく材料の小さい粒子と空気との混ざり具合が影響するため、回転ブレードの形状や冷凍時間、回転に関する間欠(一定の時間を隔てて動作がオン・オフすること)のタイミングなどを検討すればよいことがわかった。

2. 動作

材料を入れてからできあがるまでの動作、洗いやすさ、収納のしやすさについて確認した。また、中身を確認できる窓の必要性、ギアの比率と回転数などを確認した。最終的なできあがり時間の目途を立てることができた。

3. 大きさ

日本の冷凍庫に多い引き出し式は深さが浅い。高さ14cm以下でなければ入らないが、13.5cmの本体はワーキング段階でクリアした。

「これでいける!」と、小路さんは開発の成功を確信したのだった。

小路さんポートレート

アイデアスケッチを行いながらデザインを構想する小路 隆さん。現在は、パナソニックデザイン社 HAデザイン分野 商品開発グループ 空調チームに所属。

ワーキングモデルの構成1
ワーキングモデルの構成2
ワーキングモデル

ワーキングモデルの構成はステンレスのボウル、本体(機械部)、本体カバーの3つ。本体カバーと容器が合体した際の大きさを確認したところ、高さ13.5cmだった。

庫内の大きさを実測しているところと本体が庫内に納まっているところ
本体が収納されているところ

向井さんは近所の家々を回り訪問調査を行った。冷凍庫の高さ、実際に入れたときの様子、収納しやすさなどを実地検分した。

小路さんがワーキングモデルをベースに全体のデザインを決めていく間、向井さん、白川さん、楠本さんらが細かな仕様を検討していった。

白川さんと向井さんは当時をこう振り返る。
「まず、アイスクリームのつくり方から勉強しました。実際にアイスクリームメーカーに取材にうかがい、工場見学も行いました。また、調理学校にも行ってレシピについてもうかがいました。そうするうちに、おいしい(舌触りのなめらかな)アイスクリームをつくる秘訣は、材料に空気をたっぷり含ませることだというとがわかってきたんです」

おいしいアイスクリームをつくるため、白川さんたちは実験を繰り返し行い、攪拌の回数や回転間隔などを検討していった。試作に採用したレシピはベーシックなバニラアイスだった。

「最初は手動でかき混ぜのタイミングを見ながら調整をしていきました。初めは液状の材料も次第に固まってきますから、かき混ぜる間隔を短くしていく必要があります。そうしたタイミングを決定し、最終的にマイコンにインプットしていったのです」
白川さんの言葉に楠本さんが補足した。
「回転ブレードの形状もつくっては変えての連続でした。ブレードは穴あきで変型がよいのはわかっていましたが、具体的にどう変型させるかは実験で検証しながら決めていきました」
攪拌の商品化にたどり着くまでに、彼らはいったい何kgのアイスクリームをつくり、食べたのだろう。小路さん曰く、おそらく何十kgにもなったのではないか。

このほか、電池寿命なども検討された。容器1杯500mlのアイスクリームを25回つくることができるということで、夏休み期間にほぼ毎日つくったとしても、電池は大丈夫だ。

商品化された本体部のデザインは、とてもかわいらしい小判型。この形状が無駄なくすっきりとしており、大きな黄色い丸のスイッチがアクセントとなって、素敵だ。このデザインについて小路さんは説明する。
「ワーキングモデルを使ってレイアウトを検討するなかで、小判型がバランスもよく、一番まとまりがありました。スイッチボタンは卵黄のイメージです。アイスクリームのレシピを象徴するのが卵黄ですので、スイッチでそれを表現しました。実際の卵黄の色より少し明度・彩度を上げ、清潔でさわやかなイメージにしています」

それぞれの立場で育てた開発への思いが実を結び、世に出たコードレスアイスクリーマーは予想以上の売れ行きを示した。
お菓子づくりが好きな女性がターゲットだったが、実際はおばあちゃんが、孫と一緒にアイスクリームづくりを楽しむために購入するというケースが多いという。一種のコミュニケーション・ツールとして効果を発揮しているようだ。

また、なんと東南アジアはじめ海外でもまんべんなく売れているという。電池式なので電圧を気にしなくてよい点もさることながら、日本のようにコンビニが発達していない海外では、アイスクリームを簡単に買うことができず、家庭で手軽につくれるアイスクリーマーが重宝されるのだという。

最初は、「だれがつくるねん?アイスクリーム」という存在だったアイスクリーマー。しかし、今ではあったら欲しい、使いたい道具の代表格となった。「どうしても世に出したい」と願う担当者らの情熱が、賛同者を生み、ユーザーの潜在的な願望と重なった瞬間だ。今までにない道具が生まれ、新しい文化が育っていくのはこんなときなのだろう。

次回はとうとう最終回。2005年度のグッドデザイン賞金賞を獲得した「電池がどれでもライト」をレポートします。これもまた、あったらいいなの典型的な道具。この商品の開発ストーリーを通じて、同社のデザイン思想をも解明していきます。乞うご期待!

白川さんポートレート

応用商品グループ 開発担当 主任技師の白川美帆さん

楠本さんポートレート

電気開発担当の楠本殉也さん

ブレード2種

アイスクリームの材料を攪拌するブレードは、当初、穴あきと穴なしの2種が検討された。

回転羽アップ

ブレードの最終的なかたち。底についた材料ももらさずキャッチする底部の曲線カーブ。上部は大きく斜めに切り込んだフラッグ状のブレードを並置することで、液状から固形へと変化する材料をまんべんなく攪拌することができる。

コードレス アイスクリーマーの部品一式

コードレス アイスクリーマーの部品一式。

アイスクリーマー真上

卵黄のイメージを表現したスイッチボタン。フタには透明な窓が付いている。コスト的には割高になる構造だが、これがあるからつくり手も子供も楽しめる。フタと容器を止める方法は、弁当箱によくみられる引っかけ方式。

できあがったアイスクリーム

企画の向井さんが用意くださったアイスクリーム。できあがったら、そのまま冷凍庫で保管できる。

2008年10月1日、松下電池工業株式会社は、エナジー社に社名を変更いたしました。

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