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※過去に掲載された記事になります。内容は公開時のものであり、最新の情報とは異なる場合がございます。


ワーキオの開発現場をみてみようと、宇都宮(駅前が餃子屋さんだらけでびっくり)のパナソニックコミュニケーションズ株式会社を訪ねた。(写真は、複合機とはまったく無関係な、宇都宮駅前の餃子像)
そこで、実際に開発に携わった4人の技師の方にお話を伺ったのだが、カラー複合機にIHの技術を組み込み、15秒という驚異的なウォームアップタイムを実現した背景には、この会社ならではの複雑な事情と、有能な技術者を襲った数奇な運命、そして、松下ならではの多彩な技術が、奇跡的に絡み合っていることがわかってきた。
そもそも、なぜ15秒というとんでもないウォームアップタイムにする必要があったのだろうか。そこには、複合機業界における松下の位置づけが少なからず関係しているようだ。
この業界において、松下は後発メーカー。そのような状況下で製品を開発するにあたっては、どうしても目玉となる機能、性能が必要となる。そこで掲げられたのが、15秒という、業界の常識を覆す驚異的なウォームアップタイムだったのだ。
もちろん、さまざまな検討を重ねた上で設定された目標だったとは思うが、最後は「なんだかキリがいいから」という理由で決めてしまったそうである。
ウォームアップタイム15秒という目標を達成するために、IHの技術を取り入れたことも松下らしさだろう。IHは松下が古くから得意としている分野だ。
業界最高基準の目標を、いちばん自分たちらしい形で達成する。そのあたりに、松下ならではの、ものづくりに対する心意気が感じられる。
IH定着器のコイル部分には、どうも旧・九州松下電器で開発されていた偏向ヨークの技術が活かされているようだ。
偏向ヨークはブラウン管テレビに使われる部品。カラーテレビでは、R(赤)G(緑)B(青)3色の信号(電子ビーム)を画面(蛍光面)全体に行き渡らせることで、1コマの映像を作り出している。そのためには、発射された電子ビームの向きを、さまざまな方向へ変えてやらないといけない。この働き(偏向)をしているのが偏向ヨークだ。
この偏向ヨークは、コイルを漏斗(ろうと)状に立体成形したもの。この成形技術や、電子ビームを正確に偏向させるための磁力の制御技術において、九州松下電器は非常に高度なノウハウをもっていた。
しかし、松下グループ全体の事業再編のなか、2003年、九州松下電器はパナソニックコミュニケーションズに統合されることになる。
この統合によって、九州から宇都宮へ転勤してきたのが、ワーキオのIHコイルユニットを開発した立野さんだ。
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立野史洋(たての ふみひろ)さん パナソニック コミュニケーションズ株式会社 オフィスネットワークカンパニー 宇都宮 イメージングデバイスグループ IH開発チーム 主任技師 |
宇都宮への転勤の話をきいたときのお気持ちは?
「年末に異動の話がきて、年明けから配属という急な話だったので、本当に?? というのが正直な感想でした。九州から遠すぎるし……」
そ、それはたしかに急な話……。宇都宮へやってきた日には、雪が舞っていたそうだ。九州出身の立野さんには、いきなり冷たい仕打ちである。
そんな立野さん、磁界のコントロールにかけては、右に出る者はいないという。入社以来、九州松下電器でコイルや成形部品の設計に携わってきた。なかでも、偏向ヨークの開発における磁界調整の技術やノウハウが、IHコイルの開発に役立ったことはいうまでもないだろう。
ワーキオのIHコイルの開発で、とくに苦労した点はどんなことですか?
「定着ベルトの温度ムラを規格内におさめるため、コイルから発生する磁界の調整に苦労しました」
定着ベルトの温度ムラをなくすというのは、ブラウン管テレビがムラなくきれいに映るように偏向ヨークを設計するのと通じる部分がありそう。しかし、温度調整という仕事は定着器ならではのもの。そこはやはり勝手がちがったということか。それを実現した立野さんの応用力に拍手!
基板の設計を担当した瀬口さんも、旧・九州松下電器から宇都宮へ異動になったクチ。
| 瀬口一海(せぐち かずみ)さん パナソニック コミュニケーションズ株式会社 オフィスネットワークカンパニー 宇都宮 イメージングデバイスグループ IH開発チーム 主任技師 |
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入社後、大分の工場に配属されて以来、基板の設計ひと筋。とりわけ、複合機同様に大電力を扱う、エアコンの電力回路の設計の経験が、ワーキオの開発に役立ったそうだ。基板について説明をお願いすると、延々とお話ししてくださった。

……もしかすると、基板を愛してしまったひとなのかもしれない。
他人の設計した基板を見て、これはきれいだなとか、これはダメだ、と思うことはありますか?
「あります! だいたい一目見て美しい基板は、性能もいいことが多いんです」
美しい基板、とは、部品配置、配線がすっきりしている基板のことだそうだ。たしかに、よけいなデザインがされていない機能性重視の道具なんかは、なんともいえない鋭い美しさがあるもんだよね。
大電力を扱うだけに、ワーキオの電源基板には、なによりも安全性が求められる。設計に際しては、IHクッキングヒーターの回路技術が応用されたそうだ。クッキングヒーターはキッチン用品であるがゆえに、水、油、薬剤、あとは虫? とにかく敵が多い。そんな過酷な環境でもまれた安全対策の技術が、ワーキオの電源基板を支えているわけだ。
ワーキオの開発に携わったのは、九州出身のひとばかりではない。
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渡辺秀明(わたなべ ひであき)さん パナソニック コミュニケーションズ株式会社 オフィスネットワークカンパニー 宇都宮 開発グループ イメージングハードウェア開発チーム |
IHの電気的制御担当の渡辺さんは、新潟の旧・松下電送システムで、大学時代に専攻していた電波関係の知識をいかして、コードレス電話やファクスの開発をしていた。その後、松下電送システムもまたパナソニックコミュニケーションズと統合されることとなり、どういうわけか宇都宮で、縁もゆかりもないIHの開発に携わることになる。
新潟から異動になる際、渡辺さんには配属先の選択権みたいなものはあったんですか?
「希望をきかれて、ファクスの開発をしている横浜、と答えたのですが、結局宇都宮だったので、なかったんだと思います……」
当然ながら、最初はなにがなんだかさっぱりわからなかったという。
それまでとちがう分野のお仕事に、不安を感じませんでしたか?
「私の知識が役に立つのかなと不安になったのと、早く理解してついていかなくてはと思っていました。未知の領域に分け入っていくと次々に新しい発見があり、それを回路や制御仕様といった形にしていったことが楽しかったです」
新たな発見が不安を吹き飛ばしてしまう、技術者ってそういうひとたちなんだなあ。ぼくなら不安を感じるようなところには寄りつかないけど。
これは仕事に取り組んでいくなかで気がついたことだそうだが、IHとコードレス電話、ずいぶんかけ離れているように思えるけど、IHは磁界を利用した技術で、これは磁界から電界に変化しない電磁波の一種……とかなんとか、ええと、ぼくにはよくわからないけど、つまりは根っこのところではつながっているのだそうだ。もしかしたら、松下の人事のひとって、現場の技術者も気づかないような科学的な関連を考えて、配属を決めてるのかも……。え? 深読みしすぎ?
最後にご登場いただくのは、定着ユニットの開発にあたった山田さん。
| 山田英明(やまだ ひであき)さん パナソニック コミュニケーションズ株式会社 オフィスネットワークカンパニー 宇都宮 開発グループ 先行技術開発チーム 主任技師 |
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入社後、大阪の研究所でIHの研究に携わった、まさにIHのスペシャリスト。開発に際し、松下のIH商品を参考にしたことはいうまでもない。クッキング事業部(当時)からIH調理器を1台入手して、開発に活かしたそうだ。
ワーキオの開発に活かせたと思える知識、経験等はありますか?
「大学の修士課程では、非常に忙しい研究室にいたので、残業と締め切りに追われるプレッシャーに慣れてたのはよかったです」
専門的な話かと思いきや……、でも、それだけこのIH定着器の開発がたいへんだったってことだよなあ。ちなみに、大学での専攻はマグネシウム合金とのことだが、その知識はワーキオの開発には役に立っていないそうである。
ワーキオのような大きな製品は、たくさんの技術者が、ユニットごとの担当に分かれて開発が進められる。きちんと意思疎通をはかっていないと、組み立ててみたら全然動かない、なんてことになりそう……。
ひとつの製品を複数のひとで設計・開発する難しさはありますか?
「定着器の担当内でも、ひとそれぞれ製品設計に対する考え方が微妙に異なるので、そのベクトルをあわせて進めていくのが大変です。自分はいちばん年下なので、『こうしたいんですけど……』という意見を通すのに気を使います」
そんな本人の思いは伝わらず、入社当時、先輩たちの山田さんに対する評価は「新人離れしたふてぶてしさ」だったそう。しかし、それも、よりよいものをつくるという信念があったがゆえなのだろう。研究所でIH定着器の原型が苦労して作り出される過程をみて、こういった苦労をよりよい形で製品にしないといけない、という思いがつらい開発の日々を支えたそうだ。
ワーキオ開発の背景に渦巻く不思議なつながり、感じ取ることはできた?
異なる分野の専門的な知識、ノウハウを身につけた全国各地のすごい技術者と、松下のさまざまな製品で培われてきた高度な技術、それらが、意図的なのか、偶然なのか、宇都宮で奇跡的に結集し、ウォームアップタイム15秒という、デジタル複合機ワーキオをつくりあげたのである。

というわけで、今回は、フルカラーデジタル複合機「ワーキオ」の省エネのしくみを、さまざまな角度から探ってみました。「なんだ」では、複合機、コピー機の知られざる(?)定着のしくみを発見。ウーとかウィーンの待ち時間の秘密と、そこにある省エネの可能性がわかりました。「なぜだ」では、複合機にIHを組み込むためのさまざまな工夫を暴きだしました。IHそのものはいうまでもなく、そのはたらきを支える整磁合金やスイッチング電源といった存在も見逃せなかった。そして「だれだ」では、それらを開発した技術者たちを襲った数奇な運命……いやはや、盛りだくさんの内容でした。
ワーキオのウォームアップタイム15秒が、ユーザーの高い満足を得ていることは、その後の顧客満足度調査が証明している。購入動機でも上位にあがっているそうだ。それは、効率が求められるビジネスの場では当然。
だけど、省エネについて考えるなら、便利! だけで終わらせていてはいけない。15秒というウォームアップタイムの短さは、使うひとが意識してこまめに電源を切ったり、節電モードにしたりしてこそ、省エネ効果につながるのだ。結局、最後は、使う人間一人ひとりにかかっているというわけ。もちろんこれは、ほかのさまざまな電化製品についてもいえることだ。そんな感じのこと、コピー機、複合機が立ち上がるまでの間に、ちょっと考えてみたらいかが?

