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燃料電池って何でんねん? 〜家庭用燃料電池〜
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第6話 燃料電池に託すエコの夢
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第6話 燃料電池に託すエコの夢
スタックの内田さん、燃料改質部の麻生さん、システム制御の尾関さんと回路の宮内さん。家庭用燃料電池コージェネレーションシステムの商品化は、この4人をはじめとする多くの技術者たちの熱意と、松下電器グループに蓄積された数々の基礎研究や要素技術が融合して、成し遂げられたものでした。
そしてもう一人、この開発プロジェクトには欠かせない人物がいます。事業化へ向けて、オーケストラの指揮者のようにプロジェクトの舵取りをした"燃料電池マエストロ"、柴田恒雄さんです。
'01年4月。プロジェクトの長として赴任した柴田さんは、内心で驚きました。――なんや、これは。スタック、燃料改質部、システム制御と回路、それぞれのチームが個別に開発を進めている。メンバーは皆、熱意もあるし、頭もいい。なのに、総合力を出し切れてへん。なんともったいないことか……。
それが、彼の率直な感想でした。
じつは、松下電器本体で燃料電池の研究が始まったのは、今から45年も前の1960年。まだ、地球環境がどうの、という時代ではなく、むしろ日本が高度経済成長期に突入する直前で、世の中には生産性最優先のムードが充満していた頃でした。松下電器にとっても、燃料電池はさまざまなエネルギー技術の中の一つに過ぎなかったのでしょう。長い間、その研究は、ごく細々と続けられてきたにすぎませんでした。そんな状況の中では、基礎研究や要素技術をそれぞれ単独で追究していても、よかったのかもしれません。
しかし、21世紀を迎え、全世界で地球環境への取り組みが求められている今、燃料電池の実用化、商品化は松下電器にとっても重大なテーマとして取り上げられるようになっていました。そして、社長の肝いりで、事業化へ向けたプロジェクトが立ち上げられたのです。もう、個別に取り組んでいる時ではありません。
――どうしたらこれがモノになるねん、と全員で考えていかなければならない時が今なんや。そのしくみを作るために僕がここにおるんや。―――柴田さんはそう痛感したのです。
なぜなら、彼自身が、研究所から開発部門そして事業部まで、つまり、ものづくりの種まきから収穫までのすべてのセクションを経験した技術者だったからです。後輩エンジニアたちの気持ちや、それぞれのセクションのよい面もわかるし、全体として足りない部分もわかる。よい面は最大限に伸ばし、足りない部分を補い、「全体最適」をめざせば、商品化はかならず達成できるはずだ、と確信していました。
個別に開発を進めていた各チームの間を繋ぐには、どうすればいいのか。柴田さんは、それぞれの進捗状況や現時点での課題を公開しあい、自由に意見を出し合う「アイデア検討会」を定期的に開くことに決めました。
「それ、ええやん」「そんなん、アカン」……それから3年半の間、幾度となく行われた検討会の場では、各チームの代表者が出したアイデアに対し、侃々諤々、熱い議論が繰り広げられました。そして、他チームのアイデアや意見を吸収し、咀嚼し、あるときは歩み寄り、またあるときは競い合って、切磋琢磨していったのです。
「その積み重ねが相乗効果を生み、今、花開いたところです」。
'04年12月、東京ガスによる来年の市場投入が発表され、柴田さんはホッとした表情で話します。研究が得意なセクション、商品設計が得意なセクション、品質管理を専門とするセクション、そしてユーザーによる製品の使われ方を熟知するセクション。商品化のために集まった、各パートの人材それぞれが、自分の役割を果たしたのだ、と。
ここまで取材を続けてきたところで、私、三上の胸の中には、ある疑問が浮かびました。松下のみなさんのご苦労と長年にわたる努力があって、このシステムが生まれたのはよくわかりました。ただ、他社製品と松下の製品とでは、どこが違うのでしょうか。燃料電池のタイプは、各社とも固体高分子型。ガスから水素を取り出し、それを燃料にして発電するというしくみも一緒。もちろん、制御や回路をはじめ、技術的には各社の腕の見せどころはたくさんあるでしょう。でも、私たちユーザーにとって、やっぱり「パナソニック」でなきゃ、と思えるような決め手は、まだよく見えてきません。
私の問いに、「このシステムには、根底に松下のものづくりのフィロソフィーが流れているんです」と答える柴田さん。いわく、消費者にとっての使いやすさを第一に考える。たとえば、静音性。軒下に設置するこのシステムの開発にあたっては、近所迷惑とならない静かな機器であることを必須条件として考えてきた。どこのメーカーも、商品化の最終段階では静音性に配慮している。けれども、開発当初からとにかく音を小さく、と考えてきたのは松下だけである――。
昨年、他社製品を見る機会に恵まれた柴田さんは、その発する音を聞いた瞬間、心の中で密かに「勝った!」と思ったそうです。
たしかに、「門から家まで車で数十分」のビバリーヒルズと違って、家々が軒を接した日本の住宅事情を考えれば、システムから出る音の影響は大きい、と私も思います。いくら地球にいいことをしても、お隣さんに迷惑をかけたのでは……。「地球環境を保全して、人間関係を破壊する」なんて、笑えないブラックユーモアになってしまうでしょう。
それに、と柴田さんは説明を続けます。お客様のことを考えると発電効率を上げることも大切だった。そのためには、電池本体の発電効率を上げることはもちろん、各部品を動かすのにかかるパワー、つまり機器が"食う"電力量をいかに下げるかも重要である。「消費電力の小さな制御システムや部品の開発技術はまさに、家電で培った豊富なノウハウを持つ当社ならではの"お家芸"。メンテナンスのしやすさを考慮しながら機器をコンパクトにし、総力を結集して目的に達することができました」。
炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫にエアコン……。小さな家電製品の中には、連綿と蓄積された知恵と技術が詰まっている。そして、それが家庭用燃料電池コージェネレーションシステムにも、余すことなく注ぎ込まれている。柴田さんのお話を聞くうちに、つねに商品を使う人の立場に軸足を置く、"松下のフィロソフィー"が、私にも見えてきました。
さらに、と柴田さん。「このシステムは、家庭での使い方に合わせて、運転の仕方が工夫されているのです」。家庭の電気使用量は、1日のうちでも、季節によっても変動する。また、お湯の使用量は、家族がお風呂へ入る夕方から夜に集中する。そして、全員が寝静まった深夜には、電気もお湯も使わない。そこで、各家庭の電気とお湯の利用パターンを学習する機能を組み込み、もっとも効率的になるように、自動的にシステムのオン・オフがなされる――。この機能もまた、エアコンなど他の家電製品にも搭載されている技術を応用したものだそうです。
このシステムはまだ、生まれたての赤ん坊。これからも僕ら皆で、一生懸命に子育てしていかなあかんのやで――柴田さんは、いつもプロジェクトのメンバーに言うのだそうです。商品化の過程で、省エネやCO2削減といった環境性能はすでに目標を達成した。今後の最も大きな課題は、耐久性とコスト。普及期開始と目される'08年までに、耐久性を10年間に延ばし、システムの価格は、50万円程度にまで下げるよう努力せな……と。
私にすれば、50万円でもまだ高すぎるように思えました。しかし、よく考えてみると、従来型のガス給湯暖房機との差は20万円。家庭用燃料電池コージェネレーションシステムではガスを使って発電し、その排熱でお湯もできるので、ガス代は増えるものの、電気代はぐんと減ります。だから、ガス代と電気代を合計した光熱費全体では、それまでよりも安くなる。試算によると、削減額は年間3〜5万円となり、6年以内に差額分の元が取れるわけです。
「このシステムは、これからの暮らしを変える商品です」。柴田さんの話は続きます。今まで、世の奥さま方(あるいは旦那さま方)の中には、水の冷たい季節にも、油汚れの食器やうんと汚れた洗濯物にも、がまんしてお湯を使わない方がたくさんいらした。もちろん、光熱費を節約するために。それが、このシステムを家庭に導入すれば、発電の副産物としてお湯ができるから、お湯は24時間タダで使い放題。「それこそ"湯水のごとく"お湯が使えるようになるのです。炊事や洗濯もラクになり、消費者のみなさんに、かならず喜んでもらえると信じています」。
そればかりではありません。柴田さんによれば、このシステムが普及した暁には、お湯を熱源として有効利用する方法も考えられる、というのです。たとえば、床暖房。たとえば、衣類乾燥機。タダのお湯でこれらの熱をまかなうことができれば、光熱費はますます割安になる。まさに、お湯を使えば使うほど効率的なシステムである。
さらには、オール電化住宅で使う電気を、燃料電池による発電でまかなうということも可能になる。燃料電池は燃料にガスを使うので、キッチンのコンロだけガスにしたオール電化住宅、といった組み合わせも考えられ、ライフスタイルの選択肢が広がるだろう、と。
柴田さんの話を聞きながら、私は思いました。ものづくりにかかわるすべての人の原点は、「使う人を喜ばせたい」という気持ちなのだと。その想いに向けて、それぞれの人が、それぞれの立場で、力を尽くす。私たちが日頃ごく当たり前に使っている品々は、そうしたたくさんの想念の結晶。このシステムも、まさにそうして少しずつ実を結んだ結晶なのです。そしてそれは、作り手の情熱を一方的に押し付けるようにギラギラ光るのではなく、チラチラと控えめな輝きを放ちながら、私たちに使われる日を待っています。
「後は、このシステムをどうやって世の中へ普及させていくか、です」。今はまだ、競争している場合ではない。メーカー同士が手をつなぎ、日本標準仕様を作っていかなければ。また、部品の共用化を進めるなど、協力できるところはして、コストダウンを進めていく必要もある。「一家に一台」の時代へ向けて、松下がリーダーシップを取って、社会を動かす――。
柴田さんは、そう決意を語ります。
家庭用燃料電池コージェネレーションシステム。この長い名前の新商品に、私はイズムの取材を通じて初めて出会いました。一部には、これを「電気も取れる給湯器」と位置づける動きもあるようです。たしかに、家庭で発電ができて、お湯も沸く、という意味では相違ありません。それに、家庭にこのシステムを導入しても、電気製品は今までと同じように動き、蛇口をひねって出てくるお湯も、いつもどおりのお湯。だから、何の感慨も抱かない人もいることでしょう。
光熱費が浮くという点にしても、それはそれで嬉しいことです。けれど、「節約」というキーワードだけでは、このシステムの新しさやすばらしさは、とうてい言い表すことができません。「環境」という2文字を当てはめて初めて、この商品が生まれ、今まさに世の中へ出て行こうとしている、その意味が説得力を持つのです。
環境にいいことをしている――。そう感じながら日々を送るのは、私にとってはとても魅力的な暮らし方です。その気持ちは、ほとんど「憧れ」と言えるほど。
私の場合、エコロジカルな生き方をしたいという想いは、善行をしたい、というボランタリー精神とも少し違います。自分でもうまく説明できないのですが、それはたぶん、もっと本能的な感覚です。これ以上、地球環境を破壊してはいかん!というのは、頭で考えること。ですが、自発的に環境にやさしい行動を取るのは、そうすることが純粋に「心地よい」から。そして、今の時代、私と同じように感じる人が増えているんじゃないかなぁ、と思います。
けれども、プロローグで懺悔(ざんげ)したように、時間と手間とお金を注ぎ込んでエコ生活を続けるのは、思うほど簡単なことではありません。そうありたいと願う自分と、現実の自分とのギャップ――それを埋める方法を、私はこれまで無意識のうちに、求めていたような気がします。だからこそ、この"ねんでん"こと燃料電池のことが、なぜかとっても気になったのではないか、と。
このシステムを使えば、目には見えなくとも、一個人として、少しだけ地球温暖化防止に貢献することができる。これこそ、燃料電池を家庭の発電システムに取り入れることの最大の意義ではないでしょうか。
私は声を大にして言いたいのです。松下のみなさん、家庭用燃料電池コージェネレーションシステムを開発してくれて、どうもありがとう、と。本当は、すぐにでも使ってみたいところですが……。これから、どんどん普及させて、どんどん価格を下げてくださいね。きっといつか、ウチも買いますから(ホントかっ!)。
――おしまい――
パナソニックの燃料電池
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