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イタリア仕込みの「巨大クレープ」!?〜前編〜

発見者・今井ヨージ 他の発見伝も見てみる これも松下!?発見伝〜アイデア商品〜 トップへ
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皆さん。今、私は、奈良県のとある工場に来ています。
私の目の前には、大きなシートがあり・・・

その上に、小麦粉を溶いたタネのような液体が流し込まれているところです・・・。


工場の大きなシートの写真なんじゃこりゃー

さて何が作られているか、お分かりですか?


タイ焼?クレープ?ホットケーキ?
 
この巨大なクレープ状のものはなんと・・・
 
電気カーペット!なのです!!
 
電気カーペットといえば、まずオシリの下には「絨毯」があり、その下に実際に暖かくなる「ヒーター部」があるのが一般的ですよね。で、私が今、目の当たりにしているのは・・・
この「ヒーター部」の製造シーンだったのです!(床に敷かれたヒーター部の写真)
 

ご挨拶が遅れました。私は名古屋在住のイラストレーター、今井ヨージといいます。趣味は日曜大工で、週末はテレビのリフォーム番組に釘付け!今の仕事をやっていなければ大工か家具職人になりたい位。そんな私のところへ、今回のisMの取材が舞い込みました。「ものづくり魂」が分かる人と見初められたか!?そして、興味津々でこの電気カーペット工場へとやってきたわけです。プロのものづくりの現場を拝見できるなんて、願ったりかなったり!

それにしてもこの「ヒーター部」、見た目も触り心地も、私の持っていたイメージと全く違います。私の知ってる電気カーペットは、絨毯をめくると、そこにはブ厚いフェルトのような「布地」があったと思うのだけど・・・。

過去の商品写真

あのフェルト状だった「ヒーター部」が、いつの間に、なんで、どうやってこんなに進化しちゃったのでしょうか?

工場存続の危機!?


お話をうかがったのは、この新しい「ヒーター部」を生み出したメンバーのひとり、技術担当の衛藤(えとう)さん。まずは現在までの電気カーペット界の変遷を教えてもらいました。


生産技術担当
衛藤 充宏(えとう みちひろ)さん

松下ホームアプライアンス社
リビングサポートシステム事業部

  衛藤 充宏(えとうみちひろ)さん

松下で電気カーペットの生産が始まったのは、1964年のこと。以来40年以上にわたって、国内工場で製造を続けています。高級感が求められたバブルの時代には、とことん豪華なペルシャ絨毯を使った商品もあったのだとか(ちなみにそのお値段は100万円!)。

しかしバブル崩壊を経て、専業系メーカーの台頭により次第に価格競争が激しくなり・・・1990年代半ばには、電気カーペット製造から撤退する国内メーカーもチラホラと出始めたそう。

当然、ここ奈良工場でも「工場存続か、否か」という話が持ち上がりました。だけど、電気カーペットはその長い歴史を誇る、いわば工場の看板商品。コスト競争に負けて撤退すれば、脈々と続いてきた日本の製造技術がまた1つ失われてしまう・・・それだけはしたくない。


同時に、技術者・開発者の皆さんには、「横並びの製造方法から脱却して、新しいアイデアによる新しいものづくりにチャレンジしたい」という思いがありました。

松下として、オリジナリティにあふれた商品を世に出し、もっともっとお客様に喜んでもらいたい・・・!

  目指せ!オンリーワン!

こうした強い思いから、彼らはまったくの新素材による、業界オンリーワンの電気カーペット開発を決意したのでした。


彼らの考える「お客様の求める理想の電気カーペット」。それは、

もっと座り心地が良いこと
もっと清潔なこと
もっと省エネであること

これらをすべてかなえてくれるアイデアが、「不織布ではなく、エラストマー(発泡ウレタン)でヒーター部を作る」というもの。「エラストマー」は、不織布よりクッション性や耐久性、耐熱性に優れているため、電気カーペットのヒーター部にはとても適した素材なんだって!


そう、工場の大きな鉄板の上で見た「小麦粉を溶いたタネのような液体」は、エラストマーの原料液なのでした。原料液の成分は、主にポリオールとイソシアネートというもの。それぞれ元は液体ですが、混合すると摩訶不思議!化学変化を起こして「発泡」し始め、ムクムクムクッと容積が膨張。あっという間にスポンジ状に変化しちゃうのです。

 
容器に入ったイソシアネートとポリオールの写真
エラストマーの原料液
黒色(左)がイソシアネート、黄色(右)がポリオール。

マットレス、車のシート、台所用のスポンジのイラスト   「スポンジ」でピンとくる方も多いと思いますが、エラストマーといえば、ベッドのマットレスや、自動車のシート、はたまた台所用スポンジとしても使われている、実はとても身近な存在。

これでカーペットを作る、ということは、大きくて平べったくて薄いスポンジを作るということ。

衛藤さんによると、「最初は、原料液を流し込むための大きな『金型』さえ作れば、比較的簡単にできそうな気がしたのです」とのこと。あれ、本当は、そうではなかったのですか?

 

エラストマー業界、舌を巻く!?


さっそく新素材の技術開発に着手した衛藤さんらは、取り急ぎ、「エラストマーでカーペットを作りたい」と、いくつかのウレタンメーカーさんに協力を要請しました。ところが、ほとんど取り合ってもらえなかったというのです。

業界の常識でエラストマーの用途といえば、それこそマットレスといった比較的「厚み」のあるものに限られており、メーカーさんはエラストマーを分厚い立方体として発泡・成型させて、それを必要な分だけカットして納品しています。


分厚いエラストマーの塊からマットが切り出されるイラスト

ところが、松下が求めているのは、薄くて、1畳から3畳までの大判サイズ。そんな極端に薄っぺらいものを発泡・成型し、しかも一定の品質で量産するなんてことは、業界にとって「ありえない」こと。あまりに薄すぎるため、既存の手法のようにエラストマーの塊から切り出すなんてことも無理です。


「カーペットの発泡、お願いします!」「あ、ありえまへん!」
 

しかし衛藤さんらの熱意に負けて、協力してくれる会社がようやく1社あらわれた!で、さっそく取り掛かったのが、1畳サイズの金型を使った試作作業。しかしこれが周囲の忠告通り、想像を絶する苦労の連続で・・・。

金型にエラストマーの原料液を投入する。すると発泡が始まるわけですが、ここで金型にものすごい発泡圧がかかります。その力たるや、1平方センチメートルあたり約2キロ、1畳サイズで約4トンの圧力!発泡し終えるころには、頑丈にロックされた金型も、圧に耐え切れずに真ん中あたりから開いてきてしまうほどらしい!


エラストマーの発泡圧、4トン

試作で出来上がるものは真ん中だけプクッと膨らんでいたり、端っこが薄っぺらになったり・・・。すわり心地も何もあったもんじゃありません。

発泡させるごとに仕上がりの結果が違うようでは、量産なんて夢のまた夢。衛藤さんたちが思いつくまで業界にその技術が存在せず、専門家たちがこぞって難色を示したのも無理のない話だったのです。

何度トライしてもうまくいかず、やはりアイデア止まりか、とあきらめかけていた時、「イタリアに、エラストマー成型のノウハウに秀でたメーカーがあるらしい・・・」という、耳よりな情報が飛び込んできたのです。

「手がかりはそこにある!」

時は1996年2月、衛藤さんはじめ、数名の開発スタッフは、ずっしり重い400kgの1畳用の金型持参で、イタリアのウレタン加工専門メーカーを訪れたのでした。さて、その成果たるやいかに・・・!?


そして彼らは旅立った・・・。

イタリアで四方「発泡」手を尽くす!?


衛藤さんたちに与えられた時間は10日間。その間に、なんとか量産に向けての目星をつけないといけません。

ところが、日本側の目指すところを知って愕然としたのがイタリアの職人たち。きっかけは、「こういう量産ラインにまでしたいんです」と、衛藤さんが見せた既存の製造ラインの映像でした。

「これほど技術的に完成されたラインを取り壊して、イチから新しく作る!?」

「今まだ実現可能かもわからない方法なのに、正気か!?」


一向にまともに取り合ってくれないイタリア側。これに対し、衛藤さんも「そんなことはもちろんわかっている!でもやらなくてはならないんです!」と返し、大激論に。日本側は懸命に、なぜあえて困難な新技術開発に挑戦するのかという背景を、みっちり語ってきかせました。

 
当時のファックスの写真
当時、衛藤さんがイタリアから日本に送ったファックス。イタリア側の指摘に対し「(そんなことは)充分にわかっている!」の一言が。彼の焦燥感が伝わってくる。

「やらなくてはならない!」「マンマミーア!」


衛藤さんらの熱さに押し切られたイタリア側は、「成功は保証できないよ?」と言いつつも重い腰を上げ、ようやく試作現場に集合。噂に聞いていた広い面積に一気に原料液を射出する「スプレー方式」を試してみたり・・・

スプレー方式を試している当時の写真

ワンヘッド方式を試している当時の写真

細いホースをジグザグに移動させながら原料液を出す「ワンヘッド方式」で作ってみたり・・・

 
 

まさか観光なんてするはずもなく、工場にこもって昼夜を問わず奮闘が続きました。

イタリア側にとっても「エラストマーを薄っぺらに発泡させる」なんて初めての試み。日本から持ち込まれた金型に丁寧に原料液を投入するも、発泡の力がコントロールできずエラストマーがはみ出てしまい、何度も何度もやり直し!みんなで頭をひねっては原料液の投入量や調合方法を調整し、また挑戦、失敗・・・の繰り返し!

結局、原料液の投入は「ワンヘッド方式」でいくことに固まりました。実はエラストマーの原料液は接着性が高く、一度手についてしまうと普通の石鹸ではなかなか取れないほど扱いにくい物質。「スプレー方式」だとどうしても周囲に原料液が飛び散りあちこちシミだらけになってしまうため、清潔で安全な工場からはほど遠い、ということで却下となったわけです。

そしてついに帰国の日。集中して取り組んだおかげで、「あとは微調整を繰り返せば、2畳、3畳サイズの量産も可能!」と確信できるまでの成果を得ることができたのでした!こうして衛藤さんらは、がんばってくれた金型と共に帰国の途についたのでした。


大食堂で「座り心地」体感会!?


「発売は1年後だ。進めよう!」

帰国した衛藤さんたちを待っていたのは、期待に満ちた上司のコトバ。でも・・・電気カーペットの製造に必要なすべての設備を完成し量産体制を取るには、1年足らずの期限は短すぎる!エラストマーを発泡させる工程さえ、まだ暗中模索なのです。

とはいえ、この「エラストマー製電気カーペット」には、工場の存続がかかっている。やるしかない!周囲は一気にあわただしくなりました!

この時から衛藤さんはてんてこ舞い。イタリアで得たデータを元に、まずはエラストマーを発泡させる工程について、細かいレシピを探ることになりました。量産のための金型製作、原材料の調合、発泡時の金型の温度調整、といった作業に追われることになったのです。


金型を準備し試作体制を整えた衛藤さんらは、発泡させるエラストマーの「硬さ」の加減を絞り込むことにしました。金型に投入する原料液の量、投入の仕方、そして発泡時間。これらを綿密に調整していくことで、スポンジの微妙な硬さの差が出るわけです。まるでスポンジケーキを焼くパティシエのごとく、微妙な感覚を掴んでいかねばならないわけです!

  まるでパティシエ・・・のイラスト

ではどの「硬さ」がベストなの?改めて調査が必要!ということで、奈良工場の大食堂で「電気カーペット座り心地体感会」が実施されました。なんと場所は工場の食堂!体育館並みの広さを持つスペースで、普段使われているテーブルやイスを全て取り払い、床一面にバッサバッサと電気カーペットを敷きつめていく・・・。そして、社員の皆さんに次々と座ってもらい、感想を聞いたのです。既存製品、他社製品、そして試作品と、ありとあらゆる電気カーペット、なんと100枚以上がスタンバイ!80人を超える社員の皆さんが集合し、次々と座り心地をチェック。それは壮観な眺めだったことでしょうね!

食堂に敷きつめられたカーペットのイラスト

ここで得た貴重なデータを元に「座り心地のいい硬さ」が導き出され、それを目指しての試作が続けられることになりました。


座り心地の次は、「音の響き方」。実際のマンションで、上のフロアに試作品を敷き、スリッパを履いて歩いた時や、スプーンのような軽量で硬いものが落下した時を想定した実験を行い、下のフロアにどれぐらい音が響くかを調べます。嬉しいことに、エラストマー製電気カーペットはフェルト製のものと比べ、吸音性が大幅に向上する、という嬉しい結果を出すことができたのでした。

  音の響き方を調べる実験のイラスト

加えて、ヒーター部に重いものを長時間置いたままにして弾力復元性を調べるテストなど、最終商品化に向けてのこだわりチェックが繰り返されました。


エラストマー発泡のレシピを決めていくだけでもこれほどのテストがあるというのに、衛藤さんは、さらにその前後の工程、つまり「電気カーペット」を成形する全工程!を設計していったのです。

衛藤さんが心血を注いだ工場ラインは、翌年早々から建設が進められ、彼らがイタリアに渡ってからわずか1年後の1997年2月、ついに新ラインが稼動を始めました。そして春には念願の商品デビューが実現!!おめでとうございまーす!

ではここで、成形の全工程をご紹介しちゃいましょう。



1
まず、電熱線を配線し、上から表布を被せ、スタンバイ。
電熱線と表布のイラスト

2
ヒーター部の裏布にエラストマーを投入。 裏布とエラストマー原料液のイラスト

3
ここに1を乗せ、金型を被せて、   完全密封・発泡タイム!
金型で完全密封!のイラスト

4
発泡後、金型から出てきた出来立てホヤホヤのヒーター部。
出来立てヒーター部のイラスト

5
コントロールパネル取り付けへ。 コントロールパネルを取り付ける人のイラスト
エラストマー製電気カーペットの完成!
 

さて、こうして出来上がったエラストマー製電気カーペット。座り心地のよいスポンジ状であることのほかにも、エラストマーだからこそのメリットがあるみたいですよ。そのあたりを、ばっちり教えてもらっちゃいましょう!



 
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